「常葉橘・庄司隼人投手」との5年半を東海地区担当PCユキオが振り返ったレポート vol.2

常葉橘・庄司隼人投手

「見えないストレート」

取り組みが結果として表れたのは1ヶ月後。6月中旬の練習試合でした。高校通算60本塁打を超える左の強打者に投じたストレートが自己最速の147q/hを記録し、後に「見えなかった」と伝えられた一球です。  

強い気持ちで己の身体を磨き上げた結果、手にした魔球と言える「見えないストレート」人十倍くらいの「負けず嫌い・好奇心・向上心」が庄司投手の感覚を蘇らせ、さらに上へと引き上げたのです。

この一球をさかいに庄司投手の投球が見違えるように良くなっていきました。「高めに投げておけば大丈夫」なほど、そのストレートがおもしろいように決まりだしたのです。

第91回全国高校野球選手権静岡大会開幕

夏の大会に入り庄司投手の投球はますます冴えを見せます。ムチと化した右腕から繰り出される「見えないストレート」に打者のバットは空を切る。特に4回以降はエンジン全開。全身がムチ化され、投球の度に身体が大きく跳ね上がる。8・9回でも140km/h後半連発。

「俺の147は他のヤツの147とは違う」と庄司投手。3者連続三振を着火点に味方打線のエンジンも最高速に。それが常葉橘の勝ちパターンです。

この勇気あるチャレンジが成功した陰には、黒澤監督の存在がありました。夏の本番を前にして、さらには大会中までも「大切なエース・庄司隼人」のピッチングメカニクスの調整を任せてくださったのです。黒澤監督の懐の広さと深さには敬意と共に感謝の念を抱きます。

そしてそれがまた初出場の甲子園にもかかわらず、まるで常連チームかのように自分たちの能力以上のプレーを披露する選手たちをみて、まさにこれが「黒澤マジック」なんだと感じました。

「今のままではこのまま終わる。」私のところに相談に訪れた時の庄司投手は不安と焦りで迷いがピークだったのです。

今年の静岡大会は雨のため日程が詰まり準々決勝から3連投が余儀なくされました。以前の庄司投手ならキツイ3連投です。しかし今は投げれば投げるほど調子が上がっていく投手に深化しています。さらに、長い夏になることを見据えていた庄司投手は、ゲームの中で自身のピッチングモーションを微妙にサジ加減し、少ないエネルギーで効率よくピッチングをする術を覚えていったのです。

具体的にしたことをひとつ聞くと「脚を上げた時にグラブの位置を下げ、【かませ】を深くした」と教えてくれました。球速を141km/h−143km/hに押さえ丁寧にコースに投げ込み、省エネで勝てる投手へと成長していったのです。